「神々の乱心」は絶筆である。1700枚にも及ぶ未完の大作で、物語も昭和初期、新興宗教を興して、女官や軍人を信者に取り込み、宮中に勢力を伸ばし権力を手中に握ろうとする男の野望を描いた、スケールの大きな問題作である。
松本清張が謎の新興宗教の存在に突きあたったのは、「昭和史発掘」の執筆中であった。 以来、20年以上いつかは作家の創造力と洞察力でふくらませ小説化したいとあたためてきた。昭和が終ろうとする頃、清張はついに、この新興宗教と宮中というタブーを抱える題材に敢然と立ち向かうことを決意する。取材班が収集した膨大な資料や取材原稿を熟読し、構想を練った。質量ともに充実した三冊の『創作ノート』からは、その意気込みが読みとれる。
〈本当に瑞々しい作品は、若い頃には書けないものだ〉清張自身の言葉である。遺作「神々の乱心」はその言葉どおり、若々しくまるで枯老を感じさせない。最後の情熱をほとばしらせ、想像力を奔放に解き放った小説である。
本展では、初公開の「創作ノート」や膨大な収集「資料」を中心とした展示を通して、 「神々の乱心」の全貌と、取材・創作活動の過程を紹介する。
生誕100年の年が過ぎ、次の100年に向けて新たな一歩を踏みだした今、遺作「神々の乱心」の作品世界の全貌にふれ、改めて清張文学の奥深さと面白さを経験しなおし、またそれが、新たな清張作品との邂逅をうながす機縁となれば、幸いである。
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